「リョーマ。」
雨上がり、夕暮れに染まる街。
わたしの声に気がついているはずなのに一向に反応しようとしないリョーマの後ろ姿を追って足早に歩く。
―虹
「リョーマってば。」
さっきから何度呼んでも振り向いてはくれない。
原因はわかっているけど。
「ごめんって、何度も謝ってるじゃん。だって、仕方なかったんだよ・・・。」
10分くらい前のこと。
夕立が振り出したからそろそろテニス部の練習が終わるだろうと
傘を差しながら校門の前でリョーマを待っていた。
そこに、一足早く現れたのは不二先輩。
わたしと目が合うと立ち止まり、越前ももうすぐ来るよといつもの微笑みで教えてくれて。
僕も彼女と待ち合わせてるんだと、わたしの隣に並んだ。
突然の夕立に不二先輩は傘を持っていなくて、わたしはちょっと大きめの傘を差していたから
待ってる間半分入っていいですよと、大して深い意味もなく傘に入れてあげただけ。
だって、普通そうするでしょ?
「テニス部のレギュラーに、風邪ひかせるわけにいかないじゃない。」
そのあとすぐに不二先輩の彼女が来て、二人は彼女さんの傘に入って一緒に帰っていった。
その間たったの2、3分。
それを少し離れた場所からリョーマが目撃していて、不機嫌になって今に至るというわけ。
雨はすぐに上がったけど、リョーマの機嫌は依然良くならない。
「リョーマだって見てたでしょ? 不二先輩、彼女いるんだよ。」
分かってるよ。
リョーマはただ嫉妬してるだけだって。
別にわたしと不二先輩の仲を疑ってるわけじゃないってことも。
それでも。
わたしにとっては不可抗力だったけど、リョーマが傷ついたことに変わりはないから。
だからさっきから反応してくれないリョーマの背中に向かって何度も説明して謝ってるのに。
「もう・・・。リョーマってば。」
そこまで拗ねなくてもいいじゃない。
もう分かってくれてもいいじゃない。
「ごめんね・・・。」
半ば諦め気味で、もう一度だけリョーマの背中に向かってつぶやく。
と。
突然ぴたりと立ち止まったかと思うと、くるりと初めてこちらを振り返り
「こっち、きて。」
ぐいっとわたしの手を引っ張って、自分の隣に立たせた。
「あれ見て。」
リョーマの人差し指が指す方に視線を向けると。
「・・・虹だぁ。」
雨が上がったばかりの夕暮れの空に七色の大きなアーチが架かっていた。
リョーマの背中ばかり見ていたから、全然気がつかなかった。
もしかしてリョーマが振り返らなかったのは、怒っていたからだけじゃなかったの?
「少し前から出てるのに、全然気がつかないんだもん。」
呆れ顔で、だけど優しくフっと笑う。
右手は繋がれたまま。
・・・なんだか、泣きそうだ。
虹が綺麗だから?
リョーマが笑ってくれたから?
繋がった手が暖かいから?
一緒にいるこの時間が、しあわせすぎるから。
「リョーマ・・・ごめんね。」
もう一度、今度はしっかりとリョーマの目を見て言う。
「・・ん。」
もういいよって苦笑いして、リョーマは虹がかかる方へと視線を移す。
夕日に照らされた整った横顔が、前を見据えるまっすぐな瞳が、その瞳にふわりとかかる柔らかい前髪が、
そのすべてが愛しくて、胸をギュッとつかまれたみたいに苦しい。
「リョーマ・・・好きだよ。」
たまらなくなって、思わず声に出していた。
「・・・。ん。」
突然の言葉にリョーマは一瞬少し驚いた顔をして、だけどすぐにいつものクールな顔に戻って頷いた。
・・・・・・。
どうしてそこで言ってくれないかな。
たった一言でいいんだよ?
俺も。とか
好きだよ。とか。
そんなこと、リョーマは一度も言ったことなくて。
嫉妬深いくせに照れ屋で素直じゃないから。
わたしも無理矢理にそれを望んだりしないけど。
言わなくても仕草や態度でちゃんと気持ちが伝わってくるから。
だけど。
たまには聞きたいよ?
リョーマの声で。
たった一言でいいのに。
少しだけむくれて、だけどそれ以上に愛しい気持ちが大きくて。
頷いてくれるだけいいかって。
リョーマの隣でもう一度、虹を見上げる。
きっと、もうすぐ消えてしまう。
儚いものだから、しっかり胸に刻んでおこう。
大切な時間とともに。
「虹、綺麗だね。」
「ん。」
「普通そうゆう時、お前の方が綺麗だよって返すんだよ。」
「ばっかじゃないの。」
リョーマの冷たい反応に
言うと思ったと、ふふっと笑う。
「・・・。」
「ん?」
ふいとリョーマに視線を落とすと
優しいキスが待っていた。
言葉にしなくても伝わる気持ち。
心の中にリョーマの声が聴こえた気がした。
―俺も、好きだよ。
Fin...
* * * * * * * * *
嵐のアルバムを聴いていて、ある一曲にものすごくハマってしまい
その曲のイメージを広げて書いてみました。
タイトルそのままの曲です。
書いてる間もずっとその曲をヘビロテ。
すっごいいい曲です。大好きです。
個人的にリョーマには「好き」とか言わないキャラでいてほしいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
2007.10.01