「越前 越前! 越前 越前!!」

歓喜に包まれたテニスコート。
リョーマを称える大歓声がこだまする。

―青学 関東制覇。

その瞬間。
あたしの瞳にはコートの中心で先輩方に胴上げされるリョーマの姿が滲んで見えていた。



 ―夢を追いかける、その背中



関東大会決勝戦。
そこにははじめて見るリョーマの姿があった。

皇帝と呼ばれる人との試合。
いつも余裕の表情で試合をするリョーマが、必死にボールを追いかけていた。
途中、立っているのもやっとなほどボロボロになりながらも
それでもボールにくらいついていく。
マッチポイントまで追い込まれても、ひたすらに攻め続けた。

「俺はアンタを倒して全国に行く!」

目の前の圧倒的に強い相手を見据えてそう叫んだリョーマの後ろ姿に、涙が一筋こぼれた。
その小さな身体のどこにそんな力があるんだろう。
そのパワーの源は何なんだろう。
見慣れているはずの男の子が、なんだか遠い人のように思えた。

そして。
言葉どおり、リョーマはその手で勝利を掴んだ。

渾身のドライブを決めてコートに倒れこむその背中がやけに大きく見えて
涙が止まらなかった。



早く、早く、
リョーマに会いたい。
リョーマの体温を感じたい。
そして、伝えたい。
ありったけの想いをこめて

「おめでとう。」と「おつかれさま。」を。




コートではいつの間にか片付けが始まっていて、リョーマの姿はなくなっていた。
慌ててリョーマの行きそうな場所を探す。

「あ、ちゃん!」
「英二センパイっ!?」
「越前ならあっちの方にいたよ。ひとりで休んでるんじゃないかにゃー?」

バッタリ出くわした英二先輩が、あたしの目的なんてお見通しのようにニヤニヤと笑って教えてくれた。

「ありがとうございます!
 ・・・そうだ。優勝おめでとうございます!!」

それだけ言い残すと、英二先輩が指差した方向目指して走り出した。
「ありがとぉー」と言う英二先輩の声を背中に聞きながら。





「リョーマっ!!!」

使っていないコートの脇、木の幹に身体を預けて座ってファンタを飲むリョーマの姿。


「・・・。」

「やっと見つけた。」

一歩ずつゆっくりと近づく。
ついさっきまであんな死闘を繰り広げていたのに、もういつものクールな顔に戻ってる。

「なんで泣いてんの?」
「えっ・・・・。」
「目、真っ赤。」
「・・・だって。」
「何?俺が負けるとでも思った?」

ニヤリ、と自信満々とでも言いたげな顔で笑う。
・・・いつものリョーマだ。


「・・・信じてたよ。」

そう言ってリョーマの前に跪き、じっと瞳を見つめる。

「リョーマ、優勝おめでとう。そして、おつかれさま。」

ありったけの想いをこめて。
リョーマの身体をぎゅっと抱きしめた。

「・・・っ。」


伝わってくるリョーマの体温。
汗の匂い。
頬に触れるサラサラの髪。
ドクンドクンと脈打つ心臓。

すべてがリアルで、この腕の中にいるのは紛れもなくあたしの知ってるリョーマだ。
試合中少しだけ遠くに感じた背中も、今はこんなに近くにある。



「・・・ほんとに、おめでとう。」

もう一度、耳元でつぶやく。

「・・・うん。」

「おつかれさま。」

「・・・うん。」


小さく答えるリョーマの声がいつもより弱々しくて、さっきまでの試合の壮絶さを物語っているみたいだった。
・・・よく、がんばったね。
リョーマの背中にまわした腕にギュッと力をこめた。


「・・・。」

「あ、ごめん、息苦しかった!?」

腕に込めていた力を慌てて解放する。


「ちがっ!!

 
 もう少しだけ、このまま・・・。」


あのリョーマがあたしの胸に顔を埋めて掠れた声で呟いた。

「リョーマ・・・。」

そこにいるのは今まで見たことも聴いたこともないくらい弱々しいリョーマの姿。
一瞬驚いたけど、すぐに腕の力を込めなおす。


ひとりでコートに立つリョーマにあたしは何もしてあげられないけど。
強さを求めて、勝利を目指して、夢を追いかけて、
走り続ける君の背中を、いつも見つめているから。
疲れて立ち止まりたいときには、いつだってその背中を抱きしめる。

あたしの前でしか見せられない弱さがあるのなら、それを全部受け止めるから____。

だから、安心して走り続けていて。
誰よりも強く、まっすぐに、前だけを見て・・・。


「リョーマ、優勝おめでとう。」


腕の中に大好きなぬくもりを感じながら、小さなその背中にもう一度つぶやいた。




fin...





*   *   *   *   *   *   *   *   *


久しぶりのリョマ夢です。
彼女の腕の中でちょっと甘えちゃったかわいいリョーマを書きたくて出来上がったお話。
だけど、書き始めて、途中で挫折して、寝かせて、また書き始めて・・・を繰り返し、
最初に書き出してから完成まで1ヵ月半くらいかかってしまいました。
にもかかわらず、やっぱりイメージどおりに書けてないし・・。
もっと甘えたなリョーマを書きたかったんだけどなぁ。
うーん、難しいです。

ちなみにこのお話は前回のお題小説の続きになっています。
もちろん1作ずつ別々でも読めるようになっていますが。
そしてまたも原作を絡めてみました。
相変わらず、そうゆうの好きなんです。笑

最後まで読んでいただきありがとうございました。

2007.12.09