別に、今日に限ってのことではないけれど…。もうちょっと…ねぇ?気遣いってものを持って欲しいわ。
携帯で時間を確認してから、駅前の大時計にも目を向ける。当たり前と言っては当たり前だけれど、私が確認した2つの数字表示は、アナログとデジタル、という点での違いがあるだけで特に時間のズレはない。(寧ろあったら困る)
遅刻は珍しいことじゃない、それは私が一番分かってる。彼自身よりも理解している自信がある。伊達に彼という存在を見続けてきたわけじゃないんだから。
それでも、今日は少し、少しだけど期待してた。私が待ち合わせ場所に着いたとき、遅いじゃん、と憎たらしく笑う表情を。そして、普段の自分を棚に上げてよく言うわ、と反撃する自分を。
けれど、いつも座って待っているベンチには誰も座っていなくて、ベンチの下に雀がちゅんちゅんと遊んでいるだけだった。おまけに、その雀たちは私が近付くと逃げちゃうし、本格的にひとりぼっちにさせられた気分。
そうして私はかれこれ10分間待ちぼうけ。
まぁ、普段の彼の行動にしてみれば、この時間は序の口の「序」の字にも届かない程なんだけど。この孤独感が重くなるかならないかは、彼氏様にかかっているわけだ。
手袋をしていてもお構いなしに冷えてきてしまう手を、そっと揉み解して、ため息をついた。
――すると、その息が生み出しのかと思われるように、突然目の前に、可愛くラッピングされたブツが現れた。
「お待たせ」
目線を少しだけ上にずらせば、笑っている顔とご対面。そして、それは汗ばんでいる。息が乱れていることを悟られないようにしてはいるみたいだが、走ってきたことは容易に想像がついた。
先ほど参上したラッピングのリボンには『HAPPY BIRTHDAY』の文字。真新しくあるのに、部分的にクシャクシャになっているそれは、ついさっき買ってきました、と語っていた。
表に出ているかもしれない。でも、私は嬉しさを必死に押し込めて、プレゼントを受け取りながら冗談半分、攻撃の言葉をぶつけてやった。
「ジュース1年分で許してあげる」
「……ふーん」
日頃彼は、何か自分に不利な頼みごとをされると“ファンタ1週間分”と口にする。一種のお遊びであるかのように、その言い回しをまねてみたのだ。
けれど、彼はその言葉を聞いて、小さな沈黙の後、意味深げに笑った。何が出てくるのかと思い、身を硬くさせると、私の体のすぐ右横の背もたれに手が置かれ、彼の唇が私の耳元へと近付いてくる。
「それって、それだけ俺とデートするってことだよね」
やられた。
そう悔しさを感じながらも、リョーマが私だけに、何十回何百回のデートを許してくれていることを最高に嬉しく思っていることは、
今目の前で、私の赤面顔を愉快そうに見つめている彼には、口が裂けたって教えてやらないんだ。
――Dear Yui
Happy birthday !
From Shiori――
2008/02/24