図書室の窓から夕暮れのテニスコートを眺める。
それがあたしの日課。

「さぁて、そろそろ練習終わりかな。」

テニス部員たちが片付けを始めたのが視界に入り、あたしもひとつ伸びをする。
ゆっくりと荷物をまとめ、読んでいた小説を本棚に戻し。
さぁ、これから彼を迎えに行こう。


 ―夕暮れのテニスコート


真夏の屋外は、この時間でもまだまだ暑さが厳しい。
歩いているだけで汗が流れてくる。
夕方でもこんなに暑いのに、さんさんと太陽が輝く下でテニスをするというのはどれほどのものなんだろう。
いつも涼しい顔で試合をする彼の姿を思い出してみる。
想像以上にスゴイことをいつも彼はやっているのかもしれない。
天気予報は明日も快晴。

もう誰もいないだろうと思っていたテニスコートに着くと、そこにはラケットがボールを打つ音と人影があった。

「・・・リョーマ。」

明日は彼にとって大切な試合。
手塚部長不在の中、リョーマは青学を背負ってコートに立つ。
相手は中学テニス界で皇帝と呼ばれる人。
だけど、絶対に負けるわけにはいかない。

見えない相手を見据えて、相手コートに黙々とボールを打つリョーマ。
あたしがここいいることなんて絶対に気がついていない。
すごい集中力。
声をかけることもはばかられるほどで、オレンジ色に染まるリョーマの後ろ姿をあたしは静かに見つめていた。


10分くらいが経ったころ、やっとリョーマはボールを打つ手を止めた。
リストバンドで汗を拭いながら、ふとこちらを振り返る。

「・・・。来てたんだ。」

やっと、あたしに気がついた。

「うん。練習おわったように見えたから。」
「もしかして、結構待った?」
「・・・10分くらいかな。」
「声、かけてくれればよかったのに。」
「リョーマすごい集中してたから。でも、全然大丈夫だよ。」
「そっか。すぐ片付けるからもう少し待ってて。」
「あ、あたしも手伝うよ。」

そう言うと、あたしはフェンスをくぐりコートへと入った。
リョーマと一緒に散らばったボールを拾う。

「リョーマ。」
「なに?」
「明日の試合、がんばってね。」

さっきみたいに一人でコートに立つリョーマにあたしは何もしてあげられないけど
少しでも力になれるように、あたしにできる精一杯の笑顔を向けた。


「・・・じゃあ、おまもりちょうだい?」

「えっ?おまも・・」
言い終わらないうちに、リョーマの顔が目の前に近づいてきて。

そっと口唇に触れた。

「・・・っ!!?リョーマっ!??」

「瞳くらい閉じたら?」

突然のことで瞳をパチクリさせてるあたしに、いたずらっ子のような顔で笑う。

「だって・・・イキナリ・・・。って、おまもりってコレ?」
「そ。これで絶対負けらんなくなった。」
「リョーマ・・・。」
「ま、はじめから負ける気なんかないけどね。」

そう言って立ち上がり、リョーマは空を仰いだ。
オレンジ色に染まったリョーマの綺麗な顔。
さっきまでのいたずらっ子の笑顔はとっくに消えていて
空を仰ぐその姿は勝負師の顔に変わってた。


「リョーマ。」
「ん?・・・っ」

振り返ったリョーマに今度はあたしの方から顔を近づけて
そっと口唇を重ねた。


「もうひとつ、おまもり。」

ふいを突かれて驚くリョーマに、今度はあたしが笑顔を向ける番。

「今度はちゃんと瞳瞑ったからね。」
「・・・・・・。」
「だから、明日は絶対勝ってね?」
・・・。」
「ん?」
「顔、真っ赤だけど。」
「っ!!?これは夕日のせいっ!!」

慌てふためくあたしに、リョーマはまたニヤリと笑っていつものセリフを吐いた。

「まだまだだね。」



明日は快晴。
青空の下、きっと勝利の女神はキミに微笑む。



Fin...



*   *   *   *   *   *   *   *   *

初めてのお題小説です。
このお題を見たときに、オレンジ色に染まる夕暮れの中ひとり黙々と練習を続けるリョーマの後ろ姿が浮かびました。
そのイメージをふくらまして書いてみたのですが、想像以上にグダグダになってしまった・・・。
せっかく素敵なお題なのに。
もっと精進しないとだめですね・・・。
がんばります。
お題小説はイメージが膨らみやすくてたのしかったので、今後もいろいろと挑戦していきたいです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


2007.09.24