真っ暗な部屋の中、ゆらゆらと揺れるキャンドルの明かりに包まれて。
隣には大好きな人がいて。
オレンジ色のふたつの影は寄り添うように揺れて。

まるで夢の中にいるみたい。



  ―蝋燭の明かりと君の声



叶うはずのない恋だって、思ってた。

テニスコートで必死にボールを追いかける越前に惹かれて。
越前の姿を見つけるたびにドキドキが止まらなくなって。
だけど、相手は大人気のテニス部のスーパールーキーで。
あたしみたいな平凡な女の子なんか好きになってもらえるはずないって思ってた。


だから、ずっと夢見てたの。
こんな風にふたりでクリスマスを過ごすこと。
二人っきりで越前の誕生日を祝うこと。

一番近くで「おめでとう」を言えるこの距離も。 二人っきりで過ごすこの時間も。
隣に感じる越前のぬくもりさえも。
いまだに信じられなくて、時々思ってしまう。

蝋燭みたいに、ふぅーっと吹き飛ばしたら消えてしまう儚い夢なんじゃないかって。


「・・・なに?ボーっとして」

越前の声で我に返る。

「ん・・・なんか夢みたいだなぁって思って」
「はぁ?」
「しあわせすぎて、夢みたい」
「・・・何言ってんの」
「だって、夢だったんだもん。こんな風にクリスマスを過ごすの」

ばかじゃないの?って笑いながら、越前の腕が伸びてきて。
ふわりと抱きしめられる。
まだまだ慣れない、越前の体温。越前の匂い。

「えち・・ぜんっ・・・」
「リョーマ。」
「えっ・・・?」
「そろそろ名前で呼んでよ、


初めて名前を呼ばれて、心臓がドクンと大きく跳ねる。

知らなかった。
馴染んできた自分の名前が、好きな人に呼ばれるだけでこんなにも特別な響きを持つなんて。

「・・・リョーマ」
「・・・何?

耳元で囁かれれば、まるで蝋燭の明かりみたいに暖かさが胸いっぱいに広がって。

「・・・やっぱり、夢みたいだよ」
「・・・ったく」

まだそんなこと言ってんの?って呆れたように笑うと。
リョーマの顔が近づいてきて。

「夢じゃないって教えてあげる」

優しいキスが降ってくる。



ゆらゆらと揺れるキャンドルの明かり。
耳元で囁かれる君の声。

愛しい愛しい君の誕生日。


―――夢よりも甘いきみとあたしのリアル。



Fin



Special Thanks to 志緒理さま